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『フリーソロ』は、壁と戦う侍の話

『フリーソロ』という映画を観た。

エル・キャピタンと呼ばれる900m超の岸壁を、ロープを付けずに素手で登るという無謀に挑むクレイジーな男、アレックス・オノルドの話。

序盤で「彼女はいるけど岸壁を前にしたら二の次になってしまう」と言うオノルド。物語は彼のクライマーとしての現実離れした生活と、彼女と過ごす人間らしい生活を行き来する。

ロープなしで3時間以上もかけて崖を登る男はもちろん正気ではない。脳をMRIで調べると、恐怖を感じるときに反応する扁桃体という部位が、普通の人が反応する状況でも全く反応しないことが分かった。話しているときもどこか心ここにあらず、といった感じで、ちょっと人間味を感じられない。でも何故かかっこいい。

一方で彼女は、典型的な女の子といった感じで、もちろん彼を心配している。愛情表現の少ない彼に、献身的に寄り添いながらも、ちょくちょく小言を挟む。

オノルドはただ壁を登りたいだけなので、彼女の存在が支えになっているというよりは、邪魔になっているように見えた。撮影クルーにも気を取られてしまう。

多くの人が承認欲求を求める現代で、観衆はなるべく少ない方が良い、誰にも言わずに登りたい、と話すオノルドは、壁と戦う武士に見えた。実際、劇中では侍と自分を重ね合わせるようなシーンもある。

良く言えば、周りを気にせず好きなことに夢中になっている。悪く言えば、自分のことしか考えず、多くの人に心配をかけている。

登りたいから登るだけ。それでも俺を含めた視聴者に勇気を与え、社会に貢献している。本人にそのつもりがあるかどうかなんて、どうでも良いのだ。